モロッコ、彼女たちの朝

上映スケジュール

上映期間:2021/10/09(土)〜2021/10/22(金)

本作品の上映は終了しました。

料金

予告編

解説

日本初公開! モロッコ発の長編劇映画の舞台は、
カサブランカの旧市街(メディナ)にある小さなパン屋

出会うはずのなかった女たちは、パン作りを通じて新しい自分を見つけていく
社会の片隅で生きる彼女たちが作るパンは、幸せの味がする

モロッコの美しい光が包み込む始まりの物語

臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア。モロッコでは未婚の母はタブー。仕事も住まいも失い、故郷で暮らす両親に頼ることもできない。路上で眠るサミアを家に招き入れたのは、パン屋を営むアブラだった。アブラは夫の死後、娘のワルダとの生活を守るために、心を閉ざして働き続けてきた。伝統的なパン作りが得意でおしゃれ好きなサミアの登場は、孤独だった親子に光をもたらしてゆく––––。

異国情緒あふれるモロッコは、これまでにも『知りすぎていた男』(56)『シェルタリング・スカイ』(90)など多くの名画の舞台となってきたが、それらは外国人がモロッコを訪れる設定。本作はモロッコで暮らす女性2人が主人公で、モロッコ製作の長編劇映画として日本で初めて劇場公開となる。入り組んだ旧市街(メディナ)の住居にカメラが入り込み、たくさんのクッションで飾られたソファや、色鮮やかなタイルが張り巡らされたリビング、地元民が利用する共同窯など、旧市街の奥でひっそりと営まれる庶民の生活を見せてくれる。

ふたりが作る焼きたてのパンとスイーツも注目だ。モロッコの主食はパンということもあり、様々なパンが登場する。ご飯的存在の丸いホブスにハルシャ、軽食のムスンメン。お祭りのお楽しみのガゼルホーンやフェッカ。そして、アブラがサミアの腕を認めるきっかけとなった繊細な手作りの味、ルジザ。生地を滑らかに捏ねあげて成形する官能的な手つきに、揺れる感情を練り込む演出も見逃せない。

悲しみと諦めにとらわれていた2人が新しい道へ踏み出す物語を紡いだのは、マリヤム・トゥザニ監督。大学卒業後に家族で世話をした未婚の妊婦との思い出をもとに作り上げたという。その妊婦は妊娠したとたんに結婚を約束していた相手に逃げられ、家族や友達に秘密で出産を決意。ただし、“普通”の女性に戻るために、出産したらすぐに養子に出す。そう覚悟していたはずの彼女が、湧き上がる母性と厳しい現実の間で葛藤する姿が、若き日の監督の心に焼き付いたという。

カンヌ「ある視点部門」正式出品、
アカデミー賞モロッコ代表に女性監督作として初選出!

新鋭が発信する女性の世界とは 

婚外交渉と中絶が違法のモロッコでは、未婚の母は社会保障を満足に受けられない。また、婚姻関係における女性の法的地位の低さもあって、夫と死別したり離婚した女性が社会的地位の低さに苦しんでいるのが現実だ。トゥザニ監督は家父長制が根強いモロッコで、“普通”からはみ出してしまった女性を正面から取り上げ、本国で議論を巻き起こした。

メッセージ性と批判的な眼差しを下敷きにする物語だが、トゥザニ監督の語り口は静かだ。カラヴァッジョ、フェルメール、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールなどの絵画に影響を受けたと公言する監督は、サミアとアブラの心と関係の変化を静謐な光で表現する。昼の陽射しに柔らかく照らされる様はフェルメールの光の表現を、ほの暗いリビングでランプの光で人物が浮かび上がる様はカラヴァッジョの明暗の美を想起させる。

モロッコの女性が直面する苦悩と自立を描いた物語は、陰影が効いた映像美も相まって、2019年のカンヌ国際映画祭「ある視点部門」に正式出品、「クィア・パルム」にノミネート。これを皮切りに、世界中の映画祭でも喝采を浴び、現在までにアメリカ、フランス、ドイツなど欧米を中心に公開された。2020年のアカデミー賞国際長編映画部門には、モロッコ映画史上初の女性監督作として出品されと、長編デビュー作ながら快進撃が続いている。

アブラ役には『テルアビブ・オン・ファイア』(18)『灼熱の魂』(10)など、ヨーロッパを拠点に活躍するルブナ・アザバル。サミア役には日本初紹介のニスリン・エラディ。モロッコでは出演作が続く人気女優で、本作の役作りのために体重を増やした。衝突する2人を取り持つ明るいワルダには、映画初出演の子役ドゥア・ベルハウダ。

女性であることを忘れた母アブラと母性を拒否するサミアが心を通わせたとき、暗闇に光が差し込む。世界は広く、人生は続く。自分らしく生きると決めた彼女たちの、かすかな笑顔に胸が熱くなる人生賛歌。

©️ Ali n’ Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions

スタッフ

監督・脚本:マリヤム・トゥザニ

製作・共同脚本:ナビール・アユーシュ

キャスト

ルブナ・アザバル (アブラ)

ニスリン・エラディ (サミア)

作品データ

原題 ADAM
制作年 2019年
制作国 モロッコ・フランス・ベルギー合作
配給 ロングライド
上映時間 101分
映倫区分 G
公式サイト https://longride.jp/morocco-asa/