先日、宮崎大祐監督特集を実施し『大和(カリフォルニア)』『TOURISM』の2作品を上映しました。2020年1月12日の作品上映後には、宮崎大祐監督 × 樋口泰人氏(爆音映画祭プロデューサー/boid代表)のトークイベントも開催。
樋口氏は、爆音映画祭をプロデュースされた音響を駆使した上映のスペシャリストでおられ、今回特別にkikiの音響調整を行っていただきました。
その微細に調整された音響下で、制作側から感じる“映像と音響”についての貴重な感想をいただきましたので、是非ご覧ください。
“わたしの作品が、あつぎのえいがかんkikiでの
上映によって、ついに完成!”
本来映画とは映像と音声が1対1でひとしくわかれたメディアです。
しかし、ここ数十年映像表現が日々進歩・改良された一方で、音のもつ可能性というのはほとんど手つかずのままだったように思われます。
そこで、わたしは自分の映画作りにおいてその可能性に挑戦し、発掘を試みてきました。
わかりやすくいうと、さまざまな音を演出上の重要なパーツとして用いてきたのです。
ところが、長い時間をかけて作り上げた繊細な音響演出は再現できる劇場がなかなかなく、はたして自分の狙いがしっかりとお客様に伝わったのだろうかと不安になることも多々ありました。
そんな中、先日映像機器システム社さんの運営する「あつぎのえいがかんkiki」でわたしの映画を上映していただきました。
客席に座ったわたしを待っていたのは圧巻の映像・音響体験でした。
はてしなく水平に広がり、ひとつひとつの音がきわだつVCL Sound Experience社※1のCINEMA SPEAKERSの立体的な音響に、生々しく臨場感のある映像が重なると、まるで自分が映画の世界に入ってしまったようでした。
あつぎのえいがかんkikiの映像及び音響機器の設備によって、わたしの作品が本来もっていたポテンシャルのすべてを引き出され、わたしが想定していた地点をはるかに超えた「唯一無二の体験」へと進化し、わたしの映画はこの日とうとう本当の完成を迎えたように思えました。
きっとわたしの作品を鑑賞されたお客様にも、わたしの狙いがしかっりと伝わったことと信じています。
宮崎大祐
宮崎大祐監督プロフィール
映画監督。早稲田大学政治経済学部卒業後、フリーの助監督を経て2012年に『夜が終わる場所』でデビュー。2018年には『大和(カリフォルニア)』が、昨年は『TOURISM』が公開された。最新作『VIDEOPHOBIA』は今秋公開予定。
“ポテンシャルの高い音響機器によって“映画館”の可能性が広がる“
VCL Sound Experience社※1のスピーカーのポテンシャルは十分である。
ちょっと触れれば見事に反応する。時に暴走さえしかねない余力を感じながらソフトに控えめにバランスをとると100席ほどの会場の空気がガラッと変わる。
左右のスピーカーがスクリーンより前に出ているためだろうか。ちょっとしたことで音の空間がくっきりと目の前に現れるのだ。
だから逆に言うと簡単に音を上げない。うっかり上げる過ぎるとバランスが崩れ、ただ音がでかいだけの空間になってしまう。あげるなら上げた状態で再調整することで、より完成する。
そうして微細に調整された音響によって作品の良さを最大限に引き出す事ができる。
可能性は十分。映画館の閉じられた空間は世界の果てまで広がっていく、それをいかに使うか。上映スタッフだけではない、それは観客の問題でもある。ただ観るだけではない映画館の楽しみを、この音響機器が生み出す音の可能性が示してくれる。
映画館を使って遊ぼう。あつぎのえいがかんkikiは、そんなことをささやきかけているように思う。
樋口泰人
樋口 泰人 (ひぐち やすひと)
【映画批評家/爆音映画祭プロデューサー】
1957年山梨県生まれ。『キネマ旬報』『エスクァイア』『スイッチ』『スタジオボイス』などに批評やレビューを執筆。
90年代は『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』の編集委員、その後編集長を経て、ビデオ、単行本、CDなどを製作・発売するレーベル「boid」を98年に設立した。04年から、東京・吉祥寺バウスシアターにて、音楽用のライヴ音響システムを使用しての爆音上映シリーズを企画・上映。
08年より始まった「爆音映画祭」はバウスシアター閉館後も、全国で展開中。著書に『映画は爆音でささやく』(boid)、『映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか』(青土社)、編書に『ロスト・イン・アメリカ』(デジタルハリウッド)など。最近の主な配給作品に『PARKS パークス』『遊星からの物体X』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』など。
<boid>http://www.boid-s.com/
<爆音映画祭>http://www.bakuon-bb.net/
▲『大和(カリフォルニア)』と『TOURISM』のトークイベント終了後。
右:宮崎大祐監督 左:樋口泰人氏(爆音映画祭プロデューサー/boid代表)
創業者であるルイス・ワスマン氏は、1980年代に35mm映写機の製造を始め、シネマ業界でのキャリアを スタートさせました。 ドルビー®システムが映画館に持ち込まれ、映画館のオーナーが映像だけでなく、音響機器にも投資を始 めた 1990 年代初めに、彼は新しいブランドのシネマ用の音響機器をスピーカーだけでなく、パワーアンプ 等を含めたパッケージで開発することで事業を多様化しました。 デジタルシネマの登場をきっかけに、2006 年に VCL Sound Experience 社を設立、今日に至っています。 2014 年以降は、ラインアレイテクノロジーを採用したスピーカーをリリースし、ヨーロッパを中心に、中大型 映画館、Dolby®ATMOSの設置館、音響的に困難な会場向けに設計されたLW 8000 シリーズを リリースし、世界的なシネマ用スピーカーメーカーの一つとして業界から高い評価を得ています。